法務省民事局総務課登記情報センター室御中on_substance@moj.go.jp
新オンライン登記申請システム骨子案について下記のとおり意見を申し上げますので,ご査収ください。メール別添ファイルが4つありますのでご参照ください。(平成21年6月30日)
氏名:…..
住所:埼玉県…..
電話番号:…..
1.(概要)本件骨子案は,日司連や日調連,ないしソフト開発ベンダーの皆さんと打ち合わせをして策定されたものでなく,骨子案としては,総論各論入り乱れており中途半端なものであるから,一旦これを白紙撤回すべきである。
-(意見)まずお伺いしたい点がいくつかあります。
①on_substance@moj.go.jp の「on substance」とはどういう意味で,使っているのですか?法務省民事局ではオンライン政策を取りまとめる能力がなくなってしまったということでしょうか?それならば,オンライン政策からは撤退して,民間(たとえば登記オンラインについては司法書士と調査士)に任せ,民間主導で政策立案することにして,民事局はこれを補佐することに徹することでよろしいと思います。
②骨子案文中「比較的利用頻度が高い利用者」とは誰のことを想定しているのですか?仮に,そのような利用者が存在するとすれば,法務省にとって,本骨子案を立案するにあたってどのような地位を占めるものなのでしょうか?政策実行上,必要欠くべからざる存在と認識しているのか,違法な存在にもかかわらず,やむをえず利用率向上のために,支援していただくために無視できないものと認識しているものなのか?その存在についてその利用状況を具体的にお示しいただきたい。
③本件骨子案は,日司連や日調連,またソフト開発ベンダーの皆さんと打ち合わせたものですか?骨子案策定までの工程(作業日程,策定参加委員,法的根拠)をお示しいただきたい。もし仮に,また現オンラインシステムのように,法務省とシステム開発ゼネコンのみによって独断専行して策定したものだとすれば,ただちに白紙撤回すべきであります。なぜなら,そこには無尽蔵の「天下り税金還流癒着体質」類似の構造が存在する疑いが垣間見られるからであります。
④ 6月29日全国公表された「オンラインからの登記識別情報ダウンロードの不具合」問題(http://houmukyoku.moj.go.jp/homu/static/olshikibetsudl_index.html)(以下6.29不具合事件という)については,いつごろ,誰から(資格者団体か?)の情報提供によって判明したものか?その判明時期からどれくらいの期間を要して公表にいたったのか?公表時期として,意見募集の締め切り間際になったことは適切なものといえるのか?甚だ疑問であり,この点は詳細に明らかにすべきです。
⑤そのほか,登記識別情報の提供方法が簡素化できればいいのか,簡単なWEB請求ができれば,現「支援(してくれない)ソフト」は使わないと思うのだが,これを残す意味が不明であるとか?意見は聞けど,法改正はしない(できない)のではないかとか?仕様公開して業務用ソフトとの連携を良くするだけではなく,劇的に変えて欲しいけど,もう少し詳しい資料が出てこないと何を考えているのかよくわからないとか?疑問だらけである。このままでは「何べんいってもわかってくれないのだなあ」と思うばかりであります。「今まで以上に仕様を公開します」という趣旨の骨子案ならば歓迎すべきだが,セキュリティを理由にこれまでどおり非公開にする部分があるのなら,いっそ司法書士や民間業務ソフトベンダーに開発を主導させるべきです。
2.(概要)本件骨子案を策定する前に,まず自民党・登記オンラインPT(第6回・20年1月21日開催)資料に掲げられている,法務省としての施策事項の進捗状況と目途をきちんと公表すべきだ。
-(意見)以下,「不動産登記オンライン申請利用促進のための緊急に講じる具体的な施策」(参照http://www.shimazaki-net.jp/new/jimin-online-PT/PT6-moj-02.pdf)を現時点で私なりに,○・×・△・?で評価してみると,
1システム関係
△? ・民間の登記申請用ソフトウェア開発業者との連携
×? ・登記識別情報関係様式の入力簡易化のための機能の追加
×? ・オンライン物件検索を可能とするための機能の追加
× ・民間開発業者へのテスト環境の提供
×?・法務省が提供する登記申請書作成支援ソフトウェアの充実
×?・法務省オンライン申請システムの能力増強
× ・法務省ホームページの充実
2法務本省の取組
○ ・不動産登記オンライン申請利用促進協議会(日本司法書士会連合会,日本土地家屋調査士会連合会,日本弁護士連合会及び全国銀行協会)の開催
△ ・日本司法書士会連合会及び日本土地家屋調査士会連合会に対する説明会の実施
?? ・全国銀行協会等金融機関関係団体主催研修会への参加
?? ・嘱託規定がある法人への改善策の説明,PR
?? ・法務局職員に対する説明会の実施
△? ・毎月の利用件数をホームページで公開
3法務局の取組
?? ・司法書士会及び土地家屋調査士会に対する説明会の実施
?? ・金融機関に対する説明及び要請
?? ・地方公共団体に対する説明及び要請(オンライン嘱託の利用促進)
△??・利用者アンケートの実施
?? ・法務局通信ネットワークでの情報共有(職員間の情報共有(成功事例の紹介等))
×4職員の取組
?? ・法務省職員による住基カード(公的個人認証)取得キャンペーンの実施
?? ・法務局職員の登記事項証明書(職員の物件)のオンライン請求運動の実施
?? ・法務局職員(自身の)の公的個人認証取得キャンペーンの実施
×5その他
△? ・ポスター及びパンフレットの配布
以上のとおり,これらの論点についての達成状況に関する情報がどこに公開されているか不明であるので軽々に評価できないにしても,実際の日々の利用者としての目から見ると,総じて,「やる気あんのか!」と思わざるをえないほど,施策の達成度は,落第点であると評価せざるを得ないのであります。
3.(概要)これまで4年間,オンラインシステム増強をどれくらい図ったのか,数値的なものを一切明らかにできないのは,登記識別情報システムの存在であり,これを廃止すれば,あらゆる手段で増強することができる。
- (意見)法務省オンラインシステムはたびかさなるシステムトラブルによって,システム不安がつきない(にもかかわらずHP上のログイン統計を勝手にとりやめた。ログインではなく到達率の統計にすべきだ)。10%を超えたとか超えないとか利用率のみに一喜一憂をしていても,せいぜい全国で一日6000件程度のことである。オンライン利用者の固定化が進むだけで,登記識別情報を司法書士が暗号化しなければならないというバカバカしく理屈の通らない使い勝手の悪いシステムは,一般的平均的事務所にとっては利用価値がまったくない。しかも,登記オンラインの目的のひとつである行政効率は全く上がっていない。書面申請ならその場で登記が終わるのに,オンラインでは登記完了証が一日遅れで届くこともある。また,登記所の統合や廃庁だけが進み,国民の利便性には問題が残ったままである。本骨子案策定前に,システムダウン時のメールスキームなるものが公表されたにもかかわらず,この5月25日のシステムトラブルには対処できなかった(その後28日までシステムトラブルが続いた)。このように,いくらシステムを増強したといっても,いまのシステムは,多数の案件には対応できないことを骨子案募集要項で自白している。したがって,このシステムを根本的に改善するためには,まずこれまでの利用に耐えないシステムについて謝罪し,これまでの増強の数値を詳細に明らかにすることが大前提であるとともに,技術的にも金銭的にも元凶となっている登記識別情報制度を廃して取り除くことが必要なのである。年間のシステム保守金額と法務省のオンライン化予算の比較で明らかである。後述のとおり登記識別情報制度はさまざまな矛盾と問題点を孕んだものであるから,これを温存することはシステム改善の障害であり,この際,すっぱり決別して,新システムを構築すべきなのである。
- –
4.(概要)本骨子案策定の前に,06年12月の「登記識別情報制度についての研究会」報告書で指摘された問題点(有効証明自動化や失効申出制度廃止の可能性など)をすべて解決できるか検証し,制度の存廃をまず決定すべきだ。
- (意見)いわゆる「登識研」報告書にもあるとおり,登記識別情報制度におけるさまざまな問題点(http://www.moj.go.jp/KANBOU/SHIKIBETSU/hokoku.pdf )は,制度発足当初から分かっていたことでありますが,いわゆる「登識研」の報告書の発表から「すでに2年半が経過」しても,改善を要求されているにもかかわらず,一向に手つかずで放置されている問題点がほとんどであります。もしこのまま放置されたままですと,07年11月に日弁連が「1年以内の廃止意見」を表明(http://www.nichibenren.or.jp/ja/opinion/report/071122.html)したとおり国民の登記制度利用に支障をきたすことは明白であります。にもかかわらず法務省は,それから一年半もの間,政省令の改正のみを行い,付け焼刃のシステム改善を繰り返し税金の無駄遣いをして,問題の抜本的解決となる「法改正を放置」してきた。その結果が,たびかさなる不具合の発生であり,今般の更なる不具合発覚であるから,この登記識別情報制度の不具合の「再発防止策は,もはや制度の廃止しかありえないことが判明した」のであります。よって,登記識別情報制度の廃止を前提とした新システムの骨子案を策定し直すべきであります(添付1の論点表参照)。
5.(概要)登記識別情報制度は,今般の6・29不具合事件のほか事件事故が多発して,その都度,多額の税金を投入しても再発防止できないので,制度的にもシステム的にも存在理由がなく,これを廃止した骨子案とすべきである。
- (意見)これまでも登記識別情報制度におけるさまざまな不具合は,当初から懸念されていたことであって,たとえば「不適当な登記識別情報への対応結果について(2006/9/8)」(法務省HP)http://www.moj.go.jp/MINJI/oshirase2.pdf,「登記申請書作成支援ソフトウェアのパスワード不具合について(2007/10/10)」(法務省HP)http://www.moj.go.jp/MINJI/minji139.pdf,ほか当局が公表していないものでは,「登記識別情報が破けて見えない不具合事件」http://www.eonet.ne.jp/~nnn2005/fu/fu-tsj-2.htmlがあったのに,「国民のための登記制度の発展」を願う司法書士有志ら(http://www.cablenet.ne.jp/~tsj-haishi)の度重なる制度廃止提言(箴言)を,法務省は無視しつづけ放置してきた。つまり,次のとおりhttp://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/ikenbox/h20/kaitou.pdfやhttp://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/kongo/digital/pubcom/05.pdfでも分かると思うが,これらの箴言を放置してきたことがそもそもの不具合の発生原因であり,人為的ミスと言わざるをえない(添付4)。そして,今般6.29不具合事件の発覚は,まさに対症療法でごまかし続けた結果であって行政の無謬性によるものであり,根本治療を先送りにしてきた法務省の怠慢であり,行政の不作為であり,不動産登記法制定時の附帯決議を忘れた立法機関(政治)の対応の甘さであると言わざるをえない。
6.(概要)「登記識別情報を提供すべきときに提供しないまま登記完了した事件」もあり,登記識別情報制度は国民に対する背信制度であり,存続すべき立法理由はもはやどこにもなく,これを廃止した骨子案とすべきだ。
- (意見)①この事件は書面申請において複数件伝聞しており,ただちに原因究明すべきであるが,現行の登記識別情報制度は,登記完了後に登記識別情報そのものを廃棄してしまうため,「照合したかどうかの事実は,検証不能な制度」であるので,登記官のための免責要件として,官に都合の良いことばかりの不適切な制度といわざるをえない。従って,早晩,国民の登記制度利用において,甚だしい損害を及ぼす可能性が非常に高く,不動産登記法1条の「目的」であるところの,「この法律は,不動産の表示及び不動産に関する権利を公示するための登記に関する制度について定めることにより,国民の権利の保全を図り,もって取引の安全と円滑に資することを目的とする」の立法趣旨に反しており,直ちに廃止しなければならず,「登記識別情報制度の存在を前提として本骨子案は,到底,賛同できない。はじめから策定しなおすべきである。
7.(概要)電子申請のために,本人しか知りえない情報であることを以って,本人確認の制度根拠としていた登記識別情報制度は,半ライン別送方式の導入により,制度矛盾になったのだから,これを廃止した新骨子案とすべきだ。
-(意見)現行登記識別情報制度は,「本人しか知りえない情報であること」を根拠に,「本人確認のための制度」としていたのにもかかわらず,目先のオンライン利用率を上げるために別送方式という実質は書面申請にすぎない偽装オンライン方式を導入してしまい,第三者である代理人が暗号化して送信することになったのであるから,もはや制度矛盾を生じている。にもかかわらず,登記識別情報制度を「書面申請にも使うための制度」だということは,詭弁といわざるを得ない。なぜなら,別送方式による半ライン申請ならば,登記済証制度のままでよいので,登記識別情報制度を導入する必要はないからである。しかも,制度矛盾のまま政省令のみを改正することは,法律違反である。したがって,このような制度根拠を失っている致命的な欠陥を孕む制度は,直ちに廃止して,新オンラインシステムを構築し直さねばならない。
8.(概要)登記識別情報は,いわゆる個人情報であるが,実は登記識別情報通知書という書面にシールを貼って個人情報に配慮したフリの偽装制度であって,自ら変更することも有効証明の自動化もできず,憲法違反で廃止すべし。
- (意見)登記識別情報は,いわゆる個人情報であるが(先般の佐藤幸治元司法制度改革審議会会長をはじめとする情報ネットワーク法学会の新保史生慶大准教授にご教示いただきました),その内実は,登記識別情報通知書という「書面」にシールを貼って,個人情報に配慮したフリをしているだけである。一般の国民(個人)が,個人の情報を「個人情報として」オンライン利用することができず,登記をするときには,司法書士や土地家屋調査士が代理して暗号化して提供しなければ,オンライン申請できない状態は,「本人しか知り得ない情報であること」を前提にした登記識別情報制度が,本人以外の司法書士が知って暗号化して提供してしまうことであって,個人情報保護法違反であり,まさに個人の尊厳の発露であるところの「自己情報コントロール権」の侵害であり,憲法13条違反である。したがって,これを起案して政省令を改正して個人情報コントロール権侵害をさらに強行した法務省や,これを自己の免責特権として利用している法務局(登記官)は,憲法99条の憲法尊重擁護義務違反である。したがって,この登記識別情報制度は,憲法13条及び99条違反により廃止しなければならないのであり,廃止しないこともまた,憲法違反である。
しかも,個人情報保護法上,失効申出制度は廃止や制限をすることはできないのであるから,そのため失効申出制度の存在に基づく取引障害は取り除くことができない。また有効証明の自動化についても,登記官の「証明」責任の問題が絡み,システム上解決不可能であるため,先の「登識研」報告書で問題点とされた論点は悉く改善できないことが判明している。従って,登記識別情報制度はこの点でも不動産登記法1条違反なのであると同時に,個人情報保護法違反の問題を孕み,この問題を解決できないことは憲法違反の制度である。
一方,司法書士が,申請人本人であることをさまざまな情報を手がかりに確認し,それをもって登記申請したことがわかれば,登記の真正(正確性)は確実に保たれる。現にそういう制度があるのであるから,これらの制度を利用しやすいように,法改正すればよいのである。たとえば,本人確認情報制度の規定が面談を必要としたり,細かすぎるせいもあるが,登記識別情報制度の補完手段にすぎないと規定されてしまっていることが利用阻害要因となっている。すでに自民党PTでは,選択的手段だという法務省の見解があるにもかかわらず法改正をしないから,この誤った利用が横行している。したがって,この無駄な登記識別情報制度をまず廃止すれば,登記識別情報制度にお金をかけることなく,同時に,使いづらい本人確認情報制度を改正すれば,新オンラインシステム改善は進むのである。
9.(概要)IT戦略本部の報告書の項目に「添付書類の見直し(省略・電子化)」として,「申請者の負担軽減という観点から,より一層添付書類の削減や電子化に取り組む必要がある。」とある点を踏まえた骨子にすべきである。
- (意見)新改革戦略評価専門委員会や電子政府評価委員会が何をどう評価しているのか,疑問の余地がないわけではないが,その報告書に「オンライン利用促進に向けた環境の整備」の項目に「添付書類の見直し(省略・電子化)」として,「一部の手続きにおいて添付書類の省略等の取り組みが行われていることは評価できるが,申請者の負担軽減という観点から,より一層添付書類の削減や電子化に取り組む必要がある。特に行政機関が保有する情報を添付させるものについては,システム連携の促進等によって,申請者の添付省略を進めるべきである。」と述べられていることをまったく考慮していない点は甚だ遺憾である。不動産登記申請だけ,他の申請とどれほど特別に考えているのか不明であるが,登記の歴史を紐解き,まず日本や諸外国の登記制度をいちから見直すことや,すでに法務総合研究所の「研究報告」http://www.moj.go.jp/HOUSO/houkoku/keisai-kiji/icdnewsno.17_2.pdfや「日本とドイツにおける不動産公示制度の研究」(大場浩之早大准教授の博士論文http://dspace.wul.waseda.ac.jp/dspace/bitstream/2065/28842/3/Honbun-4615.pdf)のような優れた論文なども公表されているので今一度読み直すと,その中から「電子申請には電子申請なりの構造」を再構築するために参考に出来ることもあるので,ぜひ添付の文献をお読みいただきたい。特に,元来「登記済証は添付書類ではなかった」という新谷正夫先生の論稿(添付3)はもちろん,登記制度研究における古典といわれる福島正夫先生や渡辺洋三先生の登記制度に関する著作や清水誠先生の最近の論文「三度,市民法の劣化を憂える-不動産登記法の2004年改正について-」(渡辺洋三先生追悼論集『日本社会と法律学-歴史,現状,展望』2009年3月10日日本評論社発行)(添付2)は,国民にとっての登記制度の将来を見据えるものとして,必読である。
10.(概要)幾ら言っても聞く耳持たないだろうが,登記識別情報制度のような合理性のない制度を孕む不動産登記法は,世界中の笑いものだ。国際協力で登記法などを輸出する時代に,これを前提とした新システム骨子案は論外だ。
-(意見)おわりに。繰り返しになるかもしれないが,2005年3月の不動産登記法施行から丸4年以上たっても,さまざまな利用者国民(不動産業界,金融機関等を含む)にとって,各所で言われているとおり,登記識別情報制度は取引障害であり不都合のままである。「登識研」報告書で指摘されたさまざまな問題点は,すでに4年たっても全く解決しえないものであることが判明している。そしてその解決不能は「永遠の取引障害」にもかかわらず,「国民のための登記制度」として登記識別情報制度を廃止できないことは,そのために税金の無駄遣いをさせ,オンラインシステムの開発・発展を妨げており,国民のための登記専門職能である司法書士のひとりとして,甚だ遺憾であり,忸怩たる思いがある。まずは制度設計の前に,実際の日々の不動産取引の現場を一度見てほしい。登記済証ではなく登記識別情報のときは,立会では取引が流れることを懸念して「シールをめくるな」と言われ,仕方なく,なにかあったらキチンと対応してくれと条件をつけて未失効証明で対応するにしても「瞬時に回答が得られない」のであって,「最後にシールを剥がしたら中身が見えなかった」としたら,結局,時間をかけてまた他の方法の準備をしなおさねばならない。これでは,取引にならない。いつもではないにしても,これからシールの劣化により,これらの問題は多発することは明らかなのです。
なぜこのような問題が生じたか?先の清水先生の論文にもあるとおり,新登記法は,たとえば本人確認という場面において,本人の同一性の確認と物権変動の意思確認を分離した制度にできるという誤った登記法概念の元に制度設計をしてしまったからである。つまり,これまでの本人の人・物・意思の確認をその取引における一連の事象を全体として捉えることで,本人確認も意思確認もしてきた実態を無視した制度にしてしまったことによる。このような本人確認と意思確認を分離できるとする合理的な根拠はどこにもない。単にデジタル発想によって,そういうシステム設計を無闇につくりあげただけなのである。そして,「登記識別情報」があれば登記官は、どんな登記過誤があっても責任を問われることはないという国民に対する背信的な制度設計をしたのである。したがって,このような合理性のない登記法は,世界中の笑いものだ。いい加減に,とっとと改正していただきたい。
それにしても,今回の6.29不具合事件はすいぶん神経使っているようだが,こんなことにお金をかけるより,司法書士や調査士を活用したほうが,よほど税金は浮くと思いませんか?そもそも資格者は,国民のために働くのが仕事なのです。資格者自身の団体の費用で,倫理研修等することによって,国民のためになる仕事ができる。場合によっては,さらに試験をかければ,もっと真正が保てる。國が,一部のゼネコンのみにお金をかけるよりも,ずっと効率的だと思いませんか?お金は還流しないでしょうが(笑)。電子社会であればあるほど,中間の「人」,それもしっかり訓練を受けた人が必要なことはもうわかっているでしょう。大抵のことでは責任を問われない構造の公務員では,もはや電子社会は統治しきれないのです。経済活動の荒波でもまれている民間の資格者なら,そんなにへんなことはしませんよ。日々,懲戒で脅されており,万一のことがあれば,飯が食えなくなるんですから(笑)